今回は皮膚からの吸収に関する内容になります。
皮膚の構造と薬物吸収の経路
皮膚は 表皮・真皮・皮下組織 の3層から構成されており、薬物が皮膚を通過するにはいくつかのルートがある。
(1)皮膚の主要なバリア:角質層(Stratum Corneum)
- 角質層は皮膚の最外層で、 ケラチンを含む細胞と脂質 からなる強固なバリア。
- 水溶性の薬物は通過しにくく、脂溶性の薬物は通過しやすい。
- 経皮吸収の大部分は 受動拡散 によって起こる。
(2)薬物吸収の経路
薬物が皮膚を通過する主なルートは次の3つ:
親水性・高分子の薬物もある程度通過可能だが、吸収量は少ない。
・角質細胞間経路(脂溶性薬物に有利)
角質細胞の間を通るルート。
脂溶性の薬物が通過しやすい。
・角質細胞内経路(一部の薬物のみ)
角質細胞を直接通過するルート。
水溶性の薬物も一部通過可能だが、効率は低い。
・付属器経路(毛包・汗腺経路)
毛穴や汗腺を通るルート。
皮膚からの薬物吸収に影響を与える要因
(1)薬物の性質
- 分子量 → 小さいほど吸収されやすい(500Da以下が目安)
- 脂溶性 → 油に溶けやすい薬物は角質層を通過しやすい
- イオン化 → 非イオン化状態の方が吸収しやすい
(2)皮膚の状態
- 角質層の厚さ → 部位による違い(手のひら・足の裏は吸収されにくい)
- 皮膚の水分量 → 湿潤している方が吸収が高まる
- 血流量 → 血流が多い部位では薬物の移行が早い(顔・陰部など)
(3)外部要因
- 薬剤の塗布時間 → 長時間塗布すると吸収量が増える
- 塗布面積 → 広いほど吸収量が増える
- 基剤(クリーム・軟膏・パッチなど) → 基剤の種類によって吸収が変化
経皮吸収型製剤の種類
製剤の種類 | 特徴 |
---|
外用薬(クリーム・軟膏) | 主に局所作用を目的とする。抗炎症薬、保湿剤など。 |
経皮吸収型パッチ(TTS: Transdermal Therapeutic System) | 全身作用を目的とする。ニトログリセリン、フェンタニル、ホルモン製剤など。 |
リポソーム・ナノ粒子製剤 | 吸収を高める新技術。 |
経皮吸収の利点と欠点
✅ 利点
- 消化管を通過しないため、 初回通過効果を回避できる。
- 緩やかに吸収される ため、血中濃度の変動が少なく、副作用が少ない。
- 長時間作用 する薬物を投与可能(貼付剤など)。
- 非侵襲的(注射のような痛みがない)。
❌ 欠点
・アレルギーや皮膚刺激のリスクがある(接触性皮膚炎など)。
・吸収速度が遅い(即効性が必要な場合には不向き)。
・薬物の種類が限られる(脂溶性・低分子でないと吸収されにくい)。
・皮膚の状態に影響される(傷や炎症があると吸収が変化する)。
経皮吸収を利用した代表的な薬剤
薬剤名 | 用途 |
---|
ニトログリセリンパッチ | 狭心症 |
フェンタニルパッチ | 疼痛管理(オピオイド鎮痛薬) |
ホルモン補充パッチ(エストロゲン・テストステロン) | ホルモン補充療法 |
スコポラミンパッチ | 乗り物酔い防止 |
ニコチンパッチ | 禁煙補助 |
NSAIDs外用剤(インドメタシン・フェルビナク) | 鎮痛・抗炎症 |
まとめ
・皮膚からの薬物吸収は 角質層のバリアを突破することが重要。
・脂溶性・低分子・非イオン化の薬物が吸収されやすい。
・局所作用と全身作用の両方の用途がある(クリーム・パッチなど)。
・皮膚の状態や薬剤の基剤が吸収に影響を与える。
・経皮吸収型製剤は初回通過効果を回避できるが、即効性には欠ける。
演習
1. 皮膚からの薬物吸収において、主にバリアの役割を果たすのはどの層か?
a) 表皮基底層
b) 真皮
c) 角質層
d) 皮下組織
2. 経皮吸収で最も吸収されやすい薬物の性質として適切なのはどれか?
a) 親水性・高分子
b) 脂溶性・低分子
c) 親水性・低分子
d) 脂溶性・高分子
3. 次のうち、経皮吸収型製剤(TTS: Transdermal Therapeutic System)の利点として誤っているものはどれか?
a) 初回通過効果を回避できる
b) 長時間作用が可能
c) 血中濃度の急激な上昇を防げる
d) 即効性があるため、急性疼痛の治療に適している
4. 皮膚からの薬物吸収を促進する要因として適切でないのはどれか?
a) 皮膚の血流量の増加
b) 皮膚の水分量の増加
c) 皮膚の角質層の厚さの増加
d) 皮膚温度の上昇
5. 経皮吸収型製剤の使用上の注意点として正しいものはどれか?
a) 同じ部位に連続して貼ると、吸収が増加し効果が高まる
b) 入浴や運動で皮膚温度が上昇すると、薬物吸収が変化する可能性がある
c) 経皮吸収型製剤は皮膚からの吸収が一定であり、外的要因による影響は受けない
d) 経皮吸収型製剤は経口薬よりも吸収率が必ず高い
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(解答)
1. 皮膚からの薬物吸収において、主にバリアの役割を果たすのはどの層か?
✅ 正解:c) 角質層
🔍 解説
皮膚は 表皮・真皮・皮下組織 の3層構造になっています。
- 表皮の最外層である 角質層(Stratum corneum)は、ケラチンを含む死細胞と脂質からなり、薬物の透過を防ぐ最も重要なバリアです。
- 角質層を通過できる薬物は、脂溶性が高く、分子量が小さいもの です。
- 角質層の厚さは部位によって異なり、手のひらや足の裏は厚く、吸収されにくい のに対し、顔や陰部は吸収されやすい。
📌 他の選択肢について
a) 表皮基底層 → 角質層の下にあり、細胞の分裂やターンオーバーを行うが、直接のバリアではない。
b) 真皮 → コラーゲンや血管を含む層であり、薬物吸収には関与するがバリアではない。
d) 皮下組織 → 皮膚の最深部で、脂肪が多く蓄えられているが、薬物の透過にはあまり影響しない。
2. 経皮吸収で最も吸収されやすい薬物の性質として適切なのはどれか?
✅ 正解:b) 脂溶性・低分子
🔍 解説
経皮吸収の基本原則として、
- 脂溶性(親油性) → 角質層は脂質が豊富なので、脂溶性が高いほど通過しやすい。
- 低分子(小さい分子量) → 分子量が大きいと透過が難しく、500Da以下の薬物が通過しやすい。
- 非イオン化 → イオン化している薬物は水溶性が高く、角質層を通過しにくい。
📌 他の選択肢について
a) 親水性・高分子 → 角質層のバリアを通過しにくいため、吸収されにくい。
c) 親水性・低分子 → 分子量は小さいが、水溶性が高いため角質層を通過しにくい。
d) 脂溶性・高分子 → 脂溶性である点は有利だが、分子量が大きいと通過しにくくなる。
3. 次のうち、経皮吸収型製剤(TTS: Transdermal Therapeutic System)の利点として誤っているものはどれか?
✅ 正解:d) 即効性があるため、急性疼痛の治療に適している
🔍 解説
経皮吸収型製剤の利点:
✅ 初回通過効果を回避できる → 肝臓での代謝を受けずに直接血流に入るため、経口投与よりも安定した血中濃度が得られる。
✅ 長時間作用が可能 → 貼付剤は長時間一定の薬物を放出できる。
✅ 血中濃度の急激な上昇を防げる → 持続的な放出により血中濃度が安定する。
❌ 即効性はない → 皮膚を通過するのに時間がかかるため、急性疼痛(例:心筋梗塞時の強い痛み)には適さない。
4. 皮膚からの薬物吸収を促進する要因として適切でないのはどれか?
✅ 正解:c) 皮膚の角質層の厚さの増加
🔍 解説
経皮吸収を促進する要因
✅ 皮膚の血流量の増加 → 血流が増えると薬物の運搬がスムーズになり、吸収が高まる。
✅ 皮膚の水分量の増加 → 水分が増えると角質層が柔らかくなり、薬物の浸透性が向上する。
✅ 皮膚温度の上昇 → 温度が上がると血流量が増え、拡散速度も向上する。
❌ 角質層の厚さの増加 → 角質層は経皮吸収の最大のバリアであり、厚くなると吸収が低下する。
5. 経皮吸収型製剤の使用上の注意点として正しいものはどれか?
✅ 正解:b) 入浴や運動で皮膚温度が上昇すると、薬物吸収が変化する可能性がある
🔍 解説
- 皮膚温度が上がると、血流が増え、経皮吸収が促進されるため、想定以上の薬物が吸収される可能性がある(例:温泉、サウナ後に貼付剤を貼ると吸収過多になる)。
- 特に ニトログリセリンパッチ など、血管拡張作用のある薬剤は注意が必要。
📌 他の選択肢について
a) 同じ部位に連続して貼ると吸収が増加し効果が高まる → 皮膚が慣れてしまい、吸収が低下することがある。
c) 経皮吸収型製剤は一定の吸収率で、外的要因の影響を受けない → 温度・湿度・皮膚の状態で吸収が変化するため誤り。
d) 経皮吸収型製剤は経口薬よりも吸収率が高い → 必ずしも高いわけではなく、薬物の性質に依存する。り → 促進拡散はATPを使わない。グルコースなどの特定の物質の輸送に関与する。
参考資料
・Amazon.co.jp: 薬局 2023年3月増刊号 特集 「薬語図鑑:基礎薬学用語を現場で使える知識に訳してみました」 [雑誌] : 医師・薬剤師 25名: 本
・薬がみえる vol.4 第1版 | 医療情報科学研究所 |本 | 通販